2008年10月21日No.26 白内障と緑内障:その1 名前の由来について
最近、患者さんからの質問で白内障と緑内障の違いを聞かれます。なかなかわかりにくいので、反対に覚えていたり、ごちゃごちゃになっている方も多くおられます。この二つの病気、字はとても似ておりますが、まったく似て非なる病気です。今後3回の小話にわたり、いつもの診療で説明する内容を説明したいと思います。
その前に、この病気の名前について。
白内障、白は文字通り「色」を表しております。後ほど説明しますが、おそらく進行した白内障の目を外から見たときの色だったのではないでしょうか。「内障」は、これは眼科の病気に限らず他にも「肘内障」(ちゅうないしょう)「膝内障」(しつないしょう)「顎内障」(がくないしょう)などがあります。それぞれ、簡単に説明すると骨と骨がきちんとした場所からはずれ(脱臼または亜脱臼)てしまってうまく働かない状態をさします。
「内障」についての語源は諸説がありますが、一番簡単なのは「内」側の「障」害ではないでしょうか。診断技術が乏しかった昔に、「肘がおかしい」のは当然「肘の中(内)がおかしい(障害)」ので「肘内障」としたのではないでしょうか。白内障の場合、外から目を見ると白く見えて、当然目の中の病気が考えられるので白内障と名づけたのではないでしょうか。
もう一つの語源は「内障」は仏教用語で「煩悩などの心の内部の障害」を表す意味があると聞いたことがあります。他にも説があるかもしれません。
では、白と緑。これは何を表しているかというと、この病気になった時の目の色です・・・。が、厳密には違います。
白内障

老人環

白色の水晶体:白内障
白内障は目の水晶体というカメラでいうレンズの部分が白く濁る病気です。目をのぞくと黒目の真ん中に瞳孔という穴があります。その中に水晶体が見えます。
人間の瞳孔は光を当てると目の中に入る光の量を減らすために瞳孔が小さくなります。水晶体を見ようとして、明るい光で照らすと瞳孔が小さくなり見にくくなります。眼科では、散瞳薬という特殊な点眼液を使い瞳孔を強制的に広げて検査をします。実際、この部分は白内障になると白く濁ります。なるほど、病名の「白」と一致します。よく誤解されて質問されることに「老人環」があります。これは角膜(黒目)のまわりの黒目と白目の境に白い輪ができる状態で、これを白内障と思われている方が時々いらっしゃいます。
たしかに、これも白ですが、これは年齢とともに脂質がついたもので、病気ではなく生理的な変化の一つです。視力に影響がでないと考えられており、放置しても問題はありません(似たような他の病気もありますので、白目が充血するなど他の症状がある場合は診察を受けて下さい。
緑内障
緑内障は、同じ理屈でいくと目が緑に見える病気ということになりますが、実はそういうことはありません。では、なぜ緑内障の「緑」が当てられたかは、これも諸説があります。
一つは緑内障は目の圧(眼圧)が上がり目が固くなる病気ですが、角膜という黒目をつくる目の前の部分は、眼圧が急激に上がると白く濁ります。これが緑に見える?説があります。私は緑に見えたことがありません。先天性の緑内障の幼児は牛眼といって黒目が大きくなりますが、やはり緑には見えないと思います(黒っぽくみえるかもしれません)。

別な説として、昔のヨーロッパの教科書に緑内障の定義として、目が濁る病気でその濁りは緑色なので緑の字が当てられたというのもあります。
私が好きな説は、古代ギリシャのヒポクラテスが「目が地中海の海の色のように青くなり、やがて失明状態になる」と記述しており、もともと瞳の色が青い人が瞳孔が広がって(急性の発作の時に広がることが多いです)濃い青に見える可能性と、もともと瞳孔の色が薄い人がやはり同じように瞳孔が広がり黒い(青い)目に近くなり、目が青く見えるの両方が考えられます。

また、違った呼び名として「あおそこひ」や「しろそこひ」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これは緑内障や白内障の別名です「そこひ」は漢字で書くと「底翳」です。「底」は眼底(目の内側)を表し、「翳」はかげと読みます。暗くなることで影る(かげる)に近い意味です。底(眼底)に障害があって見えなくなる(暗くなる)ことを意味しております。
ちなみに(一過性)黒内障という状態もあります。これは片方の目が一過性に真っ暗になり視力を失うのですが、短時間で回復して完全に元に戻る状態です。
目を栄養している眼動脈という血管が一時的に詰まり見えなくなり、さらに再開通して元に戻った状態が考えられます。首(頚部)の血管や脳の血管の異常、さらには心臓で血栓ができやすい可能性も考えられますのですぐに精査が必要です。
この病態、目を見てもおそらく何も異常はありません。確かに目は黒(いつもと同じ)ですが、目の中に何か異常がある「内障」とは少し違うかもしれませんね。
つづく
- Category :
- 院長の小話
- 2023年04月
- 2021年08月
- 2018年12月
- 2015年07月
- 2015年06月
- 2015年05月
- 2015年04月
- 2015年03月
- 2015年02月
- 2015年01月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年09月
- 2014年08月
- 2014年07月
- 2014年06月
- 2014年05月
- 2014年04月
- 2014年02月
- 2014年01月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年09月
- 2013年08月
- 2013年07月
- 2013年06月
- 2013年05月
- 2013年04月
- 2013年03月
- 2013年02月
- 2013年01月
- 2012年12月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年09月
- 2012年08月
- 2012年07月
- 2012年06月
- 2012年05月
- 2012年04月
- 2012年03月
- 2012年02月
- 2012年01月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年10月
- 2011年09月
- 2011年08月
- 2011年07月
- 2011年06月
- 2011年05月
- 2011年04月
- 2011年03月
- 2011年02月
- 2011年01月
- 2010年12月
- 2010年11月
- 2010年10月
- 2010年09月
- 2010年08月
- 2010年07月
- 2010年06月
- 2010年05月
- 2010年04月
- 2010年03月
- 2010年02月
- 2010年01月
- 2009年12月
- 2009年11月
- 2009年10月
- 2009年09月
- 2009年08月
- 2009年07月
- 2009年06月
- 2009年05月
- 2009年04月
- 2009年03月
- 2009年02月
- 2009年01月
- 2008年12月
- 2008年11月
- 2008年10月
- 2008年09月
- 2008年08月
- 2008年07月
- 2008年06月
- 2008年05月
- 2008年04月
- 2008年03月
- 2008年02月
- 2008年01月
- 2007年12月
- 2007年11月
- 2007年10月
- 2007年09月
- 2007年08月
- 2007年07月
- 2007年06月
- 2007年04月
- 2007年03月
- 2007年02月
- 2006年12月
- 2006年11月