院長の小話

2009年01月21日No.29 老眼について

40歳を過ぎると今まで不自由なく見えていた手元のものが見にくくなっていきます。

一般に老眼と言われていますが、正式には老視と呼びます。寿命が延びた現代で、老という字を使うのはいつも違和感を覚えます。中年視も変ですので、何かよい呼び名がないものかといつも思います。新年の小話は3回にわたりこの老視をテーマに、老視のメカニズム、一般的に言われている老視の噂、遠近両用めがねや、中近、近近などの最新のめがね、さらにコンタクトレンズについて書いていこうと思います。


「駅前北村眼科通信」で書いた内容の繰り返しもありますが、まずは問題です。以下の内容は○ですか×ですか?

問1.もともと近視だから老眼にはならない。
問2.いつもしているめがねをはずすと近くがよく見えるので自分は老眼がない。
問3.私は昔から目が良くてめがねをかけたことがないから老眼にはならない。
問4.老眼になったら遠くが見にくくなる。
問5.老眼鏡をかけると老眼がすすむ。



正解は、実はすべて×です。

問1「もともと近視だから老眼にならない」、これは間違いです。すべての人は年齢とともに老視になります。老視とは、ピントの合う範囲が狭くなることにより、近くが見にくくなる状態をいいます。小話27で説明した「水晶体」という、虫眼鏡のレンズのようなものは、厚みが変わることで近くにピントを合わせることができますが、年齢とともに、この力(調節力)が衰えます。つまり、ピントを合わせられる場所が限られてきます。

近視の方は、もともと近くにピントが合っています。近視の強さにより、目から1m先に合う人もいれば、10cm前に合う人もいてそれぞれですが、めがねをかけると、遠くをはっきりと見ることができます。これはめがねによって遠くにピントを合わせているからです。老視がない方は、あるいは老視の方でもお若い頃は、そのようなめがねをかけた状態でも、調節力がありますので近くにピントを合わせ、手元を見ることができました。

もちろん無意識に行っておりますので自覚はありません。しかし、老視になりこの調節力が衰えると、手元が見にくくなりぼやけます。新聞などを離すと見やすくなるのは、離した方が少ない調節力でピントが合うからです。衰えた調節力を、物を離して見ることで補っているのです。

前置きが長くなりましたが、近視の人も老視になります。しかし、なぜ「近視の人は老眼にならない」と言われているかというと、近視の人の中で、近視の強さがやや軽い(-2Dから-3D位)方はめがねをしない状態で、手元が見えます。これは程よい近視により、ピントが目の前、33〜50cm位の場所に合っているので、遠くは見えませんが、近くはちょうどよく見えます。

通常年齢とともに、近視の状態は変わりませんので、調節力が衰えても老視になっても新聞や本などはうまい具合に見えるので老視がないと誤解します。しかし、遠く用のめがねをかけた時に症状を実感することができます。お若い頃にはめがねをかけても近くがはっきり見えたと思いますが、おそらく今はぼやけたり、ピントをあわせるのに時間がかかったりすると思います(めがねの度数を落とし弱いめがねにしている場合は、その症状は弱くなります)。また、夜など暗いところで近くの細かい字が見にくいのも症状の一つです。そういうわけで問2も間違いになります。

問3の「私は昔から目が良くてめがねをかけたことがないから老眼にはならない」も誤りですが、逆に、このような方は老視を感じやすいです。目が良い方とは正視か軽い遠視の方です。確かにピントが遠くに合っておりますので、調節力がある時は、遠くも見えて(そもそもピントが合っています)、近くも見える(調節力を使って)ので、めがねが不要ですから、いわゆる目が良いといわれてきました。

しかし、老視の年齢になると、遠くは見えますが、近くはどうがんばっても見えにくくなります。それは近くにピントが合いにくいからです。近視の方のようにめがねをはずすと近くが見えるようなこともありません(めがねをそもそもかけておりませので)。近くをはっきり見るためには必ず近く用のめがねが必要になります。

問4の「老眼になったら遠くが見にくくなる」、これも診察中によく聞きますが、老視になっても遠くの見え方は変わりません。白内障などで視力が下がっている可能性がありますので、見にくい原因を調べる必要があります。

問5の「老眼鏡をかけると老眼がすすむ」、これもよく聞きますが、間違いです。同じように「めがねをかけると近視がすすむ」も間違いですが、両者には共通点があると思います。老眼鏡も、めがねも、必要に迫られてかけることになりますが、必要に迫られるということは、前は大丈夫だったのに、今は辛い、つまり進行しているからかけ始めることが多いです。

当たり前と言えば当たり前ですが、そういう時期にかけ始めると、もともと進行しているものは変わらず進行して行くことが多いですので、あたかもめがねをかけたことによりさらに進んだ錯覚を受けます。しかし、これはかけてもかけなくても進んでいたでしょうというのが正解で、「きちんと合っためがねをかけること」と「進行」の間に関係はないといわれております。

さらに、老眼鏡もめがねも、進行して度が強くなると、かけ始めに強い違和感を感じやすいです。老眼鏡もいきなり強いものをかけようとしてもクラクラして具合が悪くなることもあります。ですので、できれば弱いうちから目を慣らすのが大切だと思います。基本的に老視も年齢とともに老眼鏡の使用にかかわらず進行します。

(つづく)

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